「こり」って何?人間と犬との違いは?
「この子、肩がこってますよ」
私が犬の施術をするとき、最初にざっくり全身の筋肉の硬さを確認します。そのとき、この言葉を口にすることがあります。
厳密には肩こり、という言葉で片付けるのは安直なのですが、イメージを伝えやすくするためにあえてこのような言い方をしています。
「え〜本当ですか笑」
「犬も肩こりするんですねぇ」
だいたいこんな感じで笑われます。
あなたは愛犬の体を触ったとき、「こりがあるな」と感じたことはありますか?
犬の骨格は人間とよく似ています。
人間と同じ名前の筋肉も多いです。
つまり、犬の筋肉もこるのです。
この記事では、犬の「筋肉のこり」について解説します。犬の筋肉のこりは人間の筋肉のこりと似ていますが、原因や対処方法は少し違うところがあります。
犬にも「こり」があるんです
多くの人は、肩こりや腰の痛みを感じたことがあると思います。
それと同じように、犬にも筋肉のこりが起こっています。でも犬はそれを伝えてくれません。こりができても放置され、姿勢に影響し、歩き方が変化するほど悪化してようやく飼い主がその状態に気づきます。
犬の筋肉のこりは見落とされることがとても多いのが現状です。
職業柄、ついついお散歩中のワンちゃんを目で追ってしまうのですが、「あの子はあの筋肉が使いにくそうだな」と感じることは多いです。
また、施術で来院した飼い主さんが「お留守番できないのでもう一匹連れてきました」と言って、もう一頭を付き添いとして連れて来ることがあります。「まだ7歳だし、この子は問題ないです」のように言われるのですが、施術が終わるまでの間、部屋を暇そうに歩いている姿を見ながら、こりのサイン(筋力低下のサイン)を見つけることは多いです。
犬の整体という存在を知っている飼い主さんですら、こりの影響を見落としているのです。犬の整体を知らない飼い主さんなら、犬の筋肉がこるという発想もないかもしれません。
そもそも筋肉のこりって何?
筋肉のこりとは、筋肉が緊張状態になり、縮んで硬くなることを指します。犬の場合も同様です。筋肉が緊張し続けることで柔軟性が低下。だんだん硬くなってこりになります。
筋肉のこりには種類があります。
大きく分けると3つです。
- 使いすぎて硬くなった筋肉
- 使わなすぎて動かさないから硬くなった筋肉
- 高齢化により体内の組織が柔軟性を失い硬くなった筋肉
犬の整体を利用するワンちゃんのこりは、「使いすぎ」か「高齢化」です。「使わなすぎ」は人間にはよく起こりますが、犬では「使えない」がより正しい表現です。
こりが生じると、犬の筋肉は正常に機能できなくなります。
筋肉のこりの原因とは?
犬の筋肉のこりの原因はさまざまです。
- 高齢化
- 体の使い方に癖がある(怪我や病気やその子の性格)
- 生まれついた体のバランス
- アジリティなど運動量が多い
- 生活環境
- ストレスや不安
- 血流、水分、老廃物
などなど……
犬は人間と違って自分でストレッチしたりしないので(伸びをすることはありますが)、筋肉の緊張をほぐす機会が少ないです。室内にいることが多く思いっきり走り回ることが少ない場合も、筋肉がこりやすいことが想像できます。
そして恐ろしいのが、一度こりができると、そこから筋肉のバランスが崩れ、どんどん姿勢が悪くなり、だんだん筋力が低下していき、筋肉の衰えに繋がってしまう負のループに陥るということです。
人間と犬のこりの違いは?
「筋肉のこり」という点では人間と犬は同じです。こりの生じ方も同じです。ただ、こりの存在に気づくタイミングや、対処方法が異なります。
なぜそうなるのでしょうか。
何が違うのでしょうか。
人間は2本足で、犬は4本足だから?
それもそうなのですが、もっと根本的な点があります。
当然ですが「言葉が通じない」ということです。
すでにいくつか紹介していますが、ここで人間と犬のこりの違いについてまとめます。
- 体の癖を自ら気を付けてやめられない
- 自らストレッチでほぐせない
- 体が壊れるまでこりが放置される
- 筋肉の連動が人間より強いため影響が大きい
- 寿命が違うから、こりができるスピードが速い
体の癖をやめられない
こりの原因として特にやっかいなのは「体の使い方の癖」がある場合です。
人間ならば「左足に体重をかけて立つ癖がありますよ」のようなアドバイスをすれば、気をつけることができますよね。
でも例えば犬が、体を右巻きに丸めて寝る癖があるみたいな場合「その寝方やめて」と言って通じるはずがありません。
自らストレッチでほぐせない
「このストレッチしてください」といって犬が自らストレッチしてくれることはありません。どうしても、飼い主さんの協力が不可欠です。なので私は施術後に、セルフケアの方法をお伝えしています。
壊れるまでこりが放置される
犬には体の不調を隠す行動を取るという本能があります。
犬は本能的に病気の症状を隠す傾向があるといわれています。これは、かつて野生で暮らしていたころの名残。犬は敵に襲われないよう、たとえケガをしていたとしても、自分が弱っていることを隠す必要があったのです。
引用:いぬのきもち|犬は本能的に病気を隠す 愛犬の病気を早期発見するコツ
足の震え、びっこを引く、歩けなくなるといった目に見える状態に陥るまで、飼い主さんが気づかないのです。これは例えるなら、あなたに肩こりや腰痛があったとして、それを放置した結果、動けないほど悪化した状態ということです。
人間の整体と犬の整体と違う点として、私は「人間は壊れる前に来てくれる、犬は壊れてから来る」だと思っています。壊れかけているものを元に戻すのと、壊れたものを元に戻すのと、どちらが難しいかは想像できると思います。犬の整体の難しさのひとつです。
筋肉の連動が人間より強い
人間と違って犬は4本足です。そして人間と違って、背骨が地面と並行です。つまり重力のかかり方が人間と異なります。筋肉にかかる負担も違います。筋肉の働きも違います。連動については別の記事で解説しますが、ここでは、筋肉のこりが体に与える影響が人間より大きいとだけ知っておいてほしいです。
寿命が違うからこりができるスピードも速い
ちょっと切ないお話ですが、人間と犬は寿命が違います。
人間の1年は犬にとって4年という説がありますが、もしあなたが今腰痛を感じているとして、それを4年間なにもせず放置したらどうなっているか想像してみてください。おそらく、かなり悪化するのだと思います。
流れている時間の速さが違う分、人間のこりよりも犬のこりの方が悪化スピードが速いのです。
つまり、こりが姿勢に影響するまでの期間も短いということです。
人間でも背中が大きく曲がった高齢者を見たことがあると思います。人間は数十年かけてあのような姿勢に歪んでいきます。でも見落としていると、犬は数年で背中が丸く歪んでしまいます。
こりやすい犬種は?
この犬はこりやすい!ということはありません。どんな犬も7歳ごろからどこかしらに筋肉のこりを持っているものです。ただ、犬種によって筋肉のこりに傾向が見られることはあります。
例えばアジリティをやっている犬ならば、衝撃を吸収したり急な方向転換をするために使う筋肉が固まりやすいです。
高齢犬や関節痛を抱えやすい犬種も筋肉のこりが発生しやすい傾向があります。
例えば、膝蓋骨脱臼(パテラ)を抱えやすいプードルなどは、膝をかばった歩き方をすることがあります。このように本来の歩き方ができないと、特定の筋肉ばかり使い、こりがさらに体を歪めてしまいます。
もちろん個体差もあるので、同じ犬種でも必ずしも全ての個体がこりやすいわけではないです!犬の個々の特徴をよく把握することがケアのポイントです。
大型犬と小型犬のこりの違いは?
大型犬と小型犬では、どちらがこりやすいでしょう?
これに関しては「どっちも同じくらい」という回答になります。こりやすい筋肉なども同じことが多いです。体重の差によって、かばい方や壊れ方、姿勢の歪み方に違いが見られることがありますが、こりの生じ方などは同じ傾向にあるようです。
もちろん、大型犬の方が筋肉の量が多いのでこりも大きく、ほぐす側の労力も多いためセルフケアはちょっと大変に感じるかもしれません。
まとめ
こりは犬の姿勢に大きく影響します。
でもその変化は、飼い主さんが気づくしかありません。
日々愛犬の姿勢を観察したり、実際に硬さを触ることで、変化を見落とさないようにしてあげることがポイントです。
最初は、どれがこりなのか、よく分からないかもしれません。
私も最初はそうでした。
でも諦めずに触ってみてください。
「右より左の方が硬い気がする」と左右差を比較してみるのもおすすめです。
こりは、筋肉です。
再び柔軟性を取り戻してあげることで、伸びるようになり、引っ張られていた骨が元の位置に戻り、姿勢が改善することがあります。
こりが生じたばかりであれば、ほぐしやすく、変化も比較的分かりやすいかもしれません。
逆に、複数のこりが影響し合ってしまっている場合、ほぐれにくく、一か所ほぐしただけでは変化を感じられないかもしれません。
だからこそ、まだ若いと思っていても、早めに犬の整体を取り入れることをおすすめしています。
当サイトの情報を参考に、セルフケアを頑張ってみてください。
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